結論
- 人間の脳は、報酬と抑制により制御される
- 本能とも言える部分だが、理性を持つ人間であるからこそ、コントロール可能なものもある
- コントロールができるようになれば、集中力があがる
はじめに
この本は、鈴木祐氏が書かれた本です。
多数の著書を出版されていますが、わたし自身もメジャーな書籍は全部読んだかもしれません。
この著者のすごいとことは、根拠に基づくというところです。
豊富なエビデンスに裏付けられた意見を持って、書籍を書いていますので、その客観的妥当性がある程度保持されています。
引用文献が記載されているということは、疑問が生じた際には引用文献をたどれば良いということになります。
とはいえ、引用文献にも読み方というものがありますので、それらの結果を持って妥当性が完全に担保できている、とはいえいないものもたくさんあります。
当然ですが、著者はこれらのエビデンスに精通されていますので、観察研究の結果なのでなどの断りを本文中でも見かけます。
このような書き方をしている場合は、大抵客観的に論文を読める方が多いように思います。
例えば、ワクチン不要などの類いの本を書かれている方の場合、逆に不要と言えるだけのソースが明らかではありませんので、その段階で「ウソ」だということが専門科にはバレていまいます。
とはいえ、それらのトンデモ本を絶賛する人もいらっしゃるので、根拠やエビデンスといって通じるのは、8割位なのかもしれません。
以前の医学界では(と言っても10数年前)、「それは白人のデータだから日本人には使えないだろ」といった発言がしょっちゅう聞かれていました。
このような場合どうするべきかというと、ヒトで行われたデータですので、その結果に従うことが妥当といえます。
逆にネズミのデータしかなければ、それはそれで貴重なデータになります。
そして、日本人に近いと言われるアジア人での追試が行われ、日本人も含まれる研究成果が提示されるようになります。
つまり、白人データだから使えないというのは暴論であり、その研究を批判的に吟味できていないがための苦し紛れの発言であるとも言えます。
このような方は、自分の主張を通したがります。
その結果が、ワクチンは不要などと言った結論に行き着くのかもしれません。
注意散漫と集中力
本書は、”ダヴィンチの仕事ぶりは、注意散漫で完成までこぎつけた作品総数は20を超えず、モナリザの完成に16年を要した”と書かれています(一部改変)。
一方”ピカソは、1万3500点の油絵と素描を世の中に送り出した”と書かれています(一部改変)。
この2人の歴史的有名人ですが、相対する特徴があり非常に興味深いイントロダクションです。
そして ”ハイパフォーマーは、常に一般人より400%を押す生産性を上げている” とされています。
つまり、常人の4人分です。
実際は、著者の鈴木氏もそうですが、4人分以上の成果を提示されている人は世の中に沢山いらっしゃいます。
読むスピードが本を出版するスピードに追いつかない人も、それなりにいらっしゃいます。
そんな人達は、ひとえに集中力に長けているのだと思います。
普通の人は、周囲の環境次第ですぐに興味がそれてしまい、結局やるべきタスクに手を出すこと無く経過しているのではないでしょうか。
そんな中でも集中力を保つ秘訣が、いくつも書かれています。
個人にあった方法を選択していければよいのだと思います。
生産性
日本人の生産性は低いと言われています。
生産性とは、同じ時間でどれだけの成果を提示できるかということです。
例えば1時間で10の成果を上げる場合と、1時間で50の成果を挙げる場合では、後者では5倍の生産性になります。
生産性とは、仕事を雑にすることで、仕事を早く終わらせるということではありません。
何かを生産する事、つまりは成果をより短時間で提示できる能力が必要になります。
これらの能力は、元々備わっている場合もあれば、後天的に会社内の教育体制により獲得することも可能です。
とはいえ、後天的に身につけた場合と、先天的に身に着けた場合とでは後者のほうが生産性は高いとされています。
先天的に生産性が高い人を活かすも殺すも、マネージャー次第ということになります。
つまり、マネージャーは生産性を提示できるような、教育プログラムの策定ならびにそれらの成果の提示が仕事の一環にならなけれなならないはずです。
けれども、一方的に自分の意見ばかりを部下に伝えていても、成果は向上しないということは、ある意味自明と言えるでしょう。
獣と調教師
著者は、人間の心は2つに別れいてるというメタファーとして、獣と調教師に例えています。
メタファーとは、比喩表現に近い意味で用いられます。
獣は躾や教育をしなければ、飼い主を噛んでしまいます。
人間の脳も同じく、教育や躾をしてあげることで、集中力は高められます。
例えば、教育を受けていない動物は、自分の欲望のままに餌を食べれるだけ食べ続けます。
一方、躾がされている動物では、ある程度は自分で食べる量を調整できますし、飼い主から教育されたように、ある程度制限して食べる事ができるようになります。
人間は、通常3大欲求を代表とする、欲望に満ちあふれています。
ところが、頭を使って賢く現代を生きていくためには、欲望をある程度自制する必要が出てきます。
例えば、眠いけどこれだけはやらないといけない仕事が残っている場合は、行うべきタスクを終えてから眠るように。
この場合は、眠たいという欲求が獣で、一方タスクがあるので眠るわけにはいかないというのが調教師と言えるかもしれません。
とはいえ、この段階ではこの調教師は成果を提示することはできません。
成果を提示するためには、成果にコミットすることで成果を提示できるようになります。
成果にコミットするということは、獣を調教師が極めて効率よく押さえつけ、かつ効果的に成果を提示するということになります。
注意力
人間は通常意識、無意識下常に何かに注意を向けています。
意図して注意すべきものであればよいのですが、無意識に注意が積み重なると意図しないところで脳が無駄な判断をしてしまうことになります。
つまり、本来注意すべきところで注意力が働かない可能性が生じます。
病院の場合、入院患者さんはよくせん妄を生じます。
わたしはせん妄の特徴は、歩きスマホと同じ状況に近いと考えています。
あるきスマホは自分の世界に浸り、周りが見えない状況になっていますので、ぶつかりそうになっても気付きません。
このような状況が注意力の欠如です。
注意力がないと、車の運転中だと事故の原因になりますし、先の歩きスマホの例でも人とぶつかってしまいます。
そして、何かに集中しようとした時に集中できない状況は、著しく生産性を下げることに繋がります。
生産性は先に書いたように、注意力のない状況下でもある一定の成果は提示できます。
問題は、それらの質と量のバランスです。
質と量どちらも成果として提示する必要があります。
この本には、注意の持続のことを、”アテンションコントロール”と書かれていました。
成人の限界は平均20分だそうです。
そしてこの注意力の限界を伸ばすのは難しいので、効率よく脳を使うスキルを身につける必要があると書かれています。
内なる獣
- 難しいものを嫌う
- あらゆる刺激に反応する
- パワーが強い
“獣が難しさを嫌うのは、エネルギーの消費を防ぐため”と書かれています。
経験上も難しい問題に対峙している状況では、エネルギーをたくさん消費していると感じます。
一方、簡単な問題の場合は、それほどエネルギーの消費は少ないように関じます。
これは、経験的にも納得いくように感じます。
例えば車の運転のように普段と同じ道であれば、深く考えずに済みますが、普段と異なる道の場合は、この道であっているのかなど色々考える事が必要になります。
難しいのは、簡単すぎてもダメで難しすぎてもダメだということです。
ちょうどよい、適切なところがほしいのです。
個人的には、日常での重大な決断をなるべく少なくするようにするとよいのかもしれません。
ルーチンに落とし込むということも同じです。
ルーチンといえば、野球のイチロー選手などが有名ですが、何も考えずにルーチンを行うことで、本来考えるべきところに注力するということも可能になります。
たとえば、救急外来の場合は何も考えずに胸部X線や12誘導心電図検査を行います(ホントは考えています)。
これらのルーチンに救われることは、時にあります。
でも、その確率は限りなく低いです。
でも、組織の決まりごととして定められているルーチンの場合、何も考えずにやるということは、1つの決断を減らすための戦略になりえます。
日常の8割をルーチン化することが目標になります。
残りの2割を色々考えればよいのです。
当然その2割にには、日々のルーチンの妥当性なども含まれます。
カフェインは有用
カフェインの中でも、特にコーヒーはここ20年ほどで有益なエビデンスが蓄積されてきています。
結果だけを素直に参照すると、積極的に摂取を勧めてもよいのでは無いかとも思います。
とはいえ、あくまでも嗜好品ですので摂取するしないは、全て個人に依拠します。
この本に書かれていることは、”カフェインは集中力5%Up”するそうです。
他の本にでもたくさん言及されていることですが、起床から90分はコルチゾールが出るため飲まないほうがよいとされています。
コルチゾールは闘争逃走ホルモンの代表です。
出すぎても良くないですし、でなくてもよくありません。
副腎疲労などという書籍もあります。
副腎疲労の概念が本当なのかわかりかねますが、読んでいてそれなりに納得はしてしまいます。
ホルモンを適切に出すために、操ることも1つの調教師としての戦略のような気がします。
ことさらカフェインに関しては、朝からコーヒーはあまり良くなくて、昼頃に飲むのが良さそうです。
逆に夕方になると眠れなく鳴ります。
よくいわれているのが、昼寝の前に飲むと良いとされています。
地中海食は脳機能を改善させる
地中海食は、一躍有名になりました。
地中海食が完全食というわけではなく、相対的に良い食事と言えます。
オリーブオイルや魚、赤ワイン、ナッツなど地中海食の代表は様々です。
赤ワインに関しては、アルコールが含有されてますので、積極的に勧めることは難しいような気がしています。
とはいえ、適量はグラス1杯程度ですので、普段からお酒を飲む人にとっては物足りない量になってしまうかもしれません。
お酒とは、基本的に悪者の1つと認識したほうが良さそうです。
脳に良い食事
脳に良い食事とは、ざっくりと、全粒穀物、野菜、タンパク質は鶏肉と魚、ナッツといった感じです。
個人的にも、昼はなるべくナッツとプロテインなどで、積極的に白米などを摂取しないようにしています。
馴れてくると食堂で食べるのが当たり前だったものが、食堂で食べると気持ち悪くなります。
食べているうちはよいのですが、食べ終わった後に満腹感や眠気に襲われます。
ということはゆっくり食べればよいということになります。
ゆっくり食べるにはよく噛む事が必要です。
よく噛めば、適切な食事量で空腹感が満たされます。
脳が満腹感を感じるまでの時間は、約20分とされています。
20分かけてよく噛んでたべるだけでも、食べ過ぎはある程度防ぐことが可能になるはずです。
まとめ
- 集中力の維持は20分しか続かない
- 無理やり続けるのではなく、質の改善とコントロールが重要
- コントロールするには、他のノイズを減らすことも有用
- 他のノイズが減ることで、注力すべき道が見えてくる
- 食事も脳と強く相関しているため、積極的に意識する事が大切
- 脳に余計な判断をさせないためには、なるべくルーチン化する